コラム~第49回「家庭裁判所の調停における不動産の時価」
2024.8.19
私は東京家庭裁判所の調停委員として平成9年から10年間勤務した。
担当としては、不動産鑑定士の立場から土地評価専門委員として遺産分割と離婚調停を行った。
離婚調停は、門外漢であり、離婚の成立、慰謝料、子供の養育費等をやらされたが、中心は、遺産分割調停であり、土地の時価の問題を担当した。
調停における遺残分割においては、担当裁判官と男女の調停委員の3人の合議制で行われる。遺産分割における調停においては調停委員については、男性が不動産鑑定士、女性が弁護士と担当することが多い。
そこで問題となるのは土地の時価の判定である。基本は、調停の利害関係人である申立人、相手方が土地の時価を主張することとなる。その主張の仕方としては、鑑定評価であろうが、鑑定評価には時間と費用がかかるので、不動産業者の査定書も活用される。
遺産分割調停は、裁判所が時価を決めるのではなく、当事者の主張をもとに、例えば、申立人の主張価格と相手方の主張価格を足して二で割るようなこともできる。調停は、申立人と相手方が互譲して決めることであり、時価の是非については審理しない。また、相続税の納税があるので、利害関係者が同意するのであれば税理士が作成した評価通達による相続税評価額を利用する場合もある。
いわゆる、調停とは時価を判定するのではなく、あくまでも当事者が納得して合意してもらう作業であり、そこでは、税法、民法等の法律の概念は外すこととなっている。
なお、当事者の依頼により裁判所の鑑定評価も有料で実施することができるし、不動産鑑定士の専門委員が参加して簡易評価(現地調査等を行わず、机上での土地評価、無料)もできることとなっている。
結論的には、遺産分割調停では、裁判所は大岡裁きのような白黒を決めるのではなく、当事者の互譲の精神による合意を求める場であり、そこでは、合理的な主張をする必要がある。